メイド殺人事件

STK(サトコ)

STK(サトコ)

2003年よりシンガポール移住。現地マスコミでジャーナリスト、デザイナ、写真撮影など。日本食グルメ堪能に目無し、最近の美食探訪記事: http://www.soshiok.com/article/22159

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メイド殺人事件

日本で言うなら「シロガネーゼ」的セレブな居住区がありましてBukit Timah(ブキティマ)を文字って「ブキティマーゼ」と(日本人の間で)崇められている地区がシンガポール中央西辺りにございます。

平民の分際では一生手に届くことのない、庭付き一軒家には車数台、スイミングプールにジム施設を完備していらっしゃたりして、2、3家族で住み分けれそうなサイズの豪壮な家屋は瀟洒(しょうしゃ)で眩しく、メイドさん(フィリピン、インドネシア、ミャンマーといった近隣諸国からの低賃金労働女性)を2、3人雇っているとことも朝飯前のクレイジーリッチな方々の居住区です。

そんなハイエンドなブキティマで、先週、殺人事件が起こりました。

ニュースの第一報は「ブキティマ一軒家プール脇で女性の他殺体発見!」というもの。速報写真には豊かな緑に囲まれた木製手すりのプールサイドにご遺体に被せる三角ビニールシートが青々と色彩を放っていて、(どなたかは存じませんが気の毒なお方だ・・・)と痛々しさに目を伏せていると「犯人は?被害者は誰なんだ?」周りの同僚らが騒ぎだしました。

つと、3年ほど前に起きたセントーサ島の大富豪バンガローのスイミングプールに浮かんでいるのを発見された女性水死体事件を思い出したものです。
あの時の報道写真も衝撃的で、透き通る肌の全裸体女性は真っ黒な長髪を淡やかな水にユラユラさせて、ただプカリプカリと浮かんでいる変死様は悲痛で、不可解な謎が多く残る事件でしたから。

(結局その事件は、その晩大富豪に買われたホステス女性が何を思いついたか夜中に自ら裸になってプールに飛び込み溺れ死んだのだろうという仮説で幕を閉じた、と記憶している)

そんな事件も記憶に新しく、それゆえ「プール」+「女性の死体」などと聞くと私も含めてみんな特別に反応してしまうのかもしれません。

さて、もとい今回のブキティマーゼ殺人事件ですが、被害者はそのお家の持ち主のセレブ女優マダム(69歳)と判明、犯人も雇われていたインドネシア人メイド(23歳)ということで、謎に包まれることなく電光石火で逮捕に至りました。

速戦即決犯人もあがり誰もが胸を撫で下ろしたいところですが、ちょっと待てよ、メイドがセレブなご主人様に手を掛けてしまう殺人事件、この頃ちょっと多くないですか?

今月はじめに24歳のミャンマー人メイドが85歳の雇用主を殺してしまって逮捕されたのはこの区域の事件でしたし、今年頭の26歳インドネシア人メイドが77歳の車椅子女性を死に至らしめてしまったのは・・・あれは我が家の近所でした・・・(って、天地が引っ繰り返っても我が家はセレブ地区にはございませんが)

さらに、今回のブキティマーゼ・マダム殺人事件、ことに目を引ん剝いてしまったのは、犯人インドネシア人メイドはシンガポールに到着しメイド就業開始して1週間足らずの短さと言うではありませんか。

「働き始めて一週間で殺人かぁ、、、殺されたセレブは不運だったとしかいいようがないね」

「広大な屋敷のくせに一人だけしかメイド雇ってなかったんだよね?一人じゃ鬱憤たまるだろうよ、シンガポールに来て間もなくてカルチャーショックも大きかっただろうに」

「もともと精神的にイッちゃってたメイドだったんじゃないの?キレやすかった、とか」

一体誰に同情して誰が惨(むご)いのかよくわからない周りの意見は熱を帯びて盛り上がります。

その昔といっても4、5年前ですが、セレブでない私もインドネシア人メイドを雇っていた時期がありました。まだ20歳そこそこの彼女の名前はデビ夫人の「デビィ」ちゃん。

家で寝泊まりして生活を共にし休むことなく四六時中ひっきりなしに働いてくれるのですが、雇って間もなくわかったことは、彼女は夜中になるとちょっとミステリーモード。なんでもインドネシアの方角に向かって黒魔術師のお姉さんとテレパシー交信しているらしいこと。

聞けばデビィちゃんのお姉さんは村の中でも名の通った、日本で言うところの卑弥呼のようなスキルを持った女性らしく、「私もその血を組んでいるのです奥様!」と白い目をギョロギョロさせて念仏のようなもの(魔術言葉?)をよく唱えてくれました。

仕事から疲れきって肩凝りぶら下げて帰宅すると「奥様の背中に何か取り憑いています!」と手をかざして見えない何かを取り除くかのごとく呪文を口ずさみ祈祷してくれたものです。

幸いにして呪い殺されることなく、本物の黒魔術師だったのかどうか確かめる間もなく、メイドを必要としなくなった現在までわたくし無事に生き延びていますが、発展途上国から働きに来てくれる彼女らのバックグラウンドって、私たちの想像を超える(もしくは想像に及ばない?)要素が深いレベルに浸透しているのではないかなあ、な感が否めません。

それはきっとどうしようもないことで、もちろん彼女らを雇う前に人格だとか性格だとか雰囲気だとかを面接して注意深く見抜こうとするのだけど、そのスピリチュアル的に根ざした何かというのは一緒に暮らしてみないことには分からなかったりするんだよねえ。

まあそんなこと言い出したらキリがなくて、メイドに限らず、暮らしてみないと分からないのは、ルームメイトだって然り、人生の伴侶だって然り。

と、話が右往左往してしまいましたが、兎も角、気の毒なセレブマダムの事件でありました。聞けば、社会慈善事業にも惜しみない協力を施していらっしゃったお方とか。惜しい人を亡くしたというコメントもここかしこで目にしました。

何があるかわからない世の中です、ありきたりの丸め方になってしまいましたが、毎日毎日に感謝して生きたいものです、本当に。了

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