シンガポールに青空が戻ってきた

STK(サトコ)

STK(サトコ)

2003年よりシンガポール移住。現地マスコミでジャーナリスト、デザイナ、写真撮影など。日本食グルメ堪能に目無し、最近の美食探訪記事: http://www.soshiok.com/article/22159

http://facebook.com/satoko525

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いやっほう、快晴!(大げさに表現すれば)生きるか死ぬかレベルの煙害を経験したからこそ、周りでは空に浮かぶひつじ雲を拝んではFacebookで青空写真アップデートに励み、それまで空気ほどに当たり前だと決めつけていた「臭くない大気」に安堵の溜息を漏らす市民の喜び顔が街中に溢れている。

そもそもは、この黄緑色帯びたヘイズと呼ばれる煙霧、インドネシアの島々で毎年この季節に実施される畑焼きに引き起こされたもの。畑焼きなのかジャングル焼きなのか、NASA衛星の「今日の一枚」決定的写真にもピックアップされ(2013年6月19日付)、兎にも角もの夥しい火災が、シンガポール島西側に位置するスマトラ島で確認され、煙という煙が東に向かう風に乗っかって、シンガポールを含むマレー半島の先端をポックリと飲み尽くしているような写真。
(参照:earthobservatory.nasa.gov/IOTD/view.php?id=81431

「この白煙帯の下に我々は生存して息も絶え絶え苦しんでるんだなあ」と宇宙から撮影された一枚に、今更ながら人間の存在サイズのちっぽけさを感じたものだった。

今回の歴史的記録を刻んだヘイズ煙害がシンガポール社会に及ぼした影響とニュースポイントは多岐に渡る。

1)インドネシア高官の「ヘイズに対するシンガポールの反応は幼い子供レベルで話にならない」コメント===>シンガポール市民の怒りを買う。この怒りは火災を野放しにしているインドネシアへのみならず、シンガポール政府にも矛先が向かったり。

2)半ば不謹慎な笑みを誘ってしまうようなヘイズ現象写真のFacebook, Twitterシェアが社会現象に。健康に深刻な被害をもたらす最悪状況に自身が置かれていても、持ち前の自虐性を放つ写真やコメントは、日本だったらば絶対見られないよなあ、となんだか感心してしまった。カメラ小僧多きシンガポールならでは。その常に笑いを身に引き寄せておけられる余裕スピリットに脱帽。
(参照:forums.hardwarezone.com.sg/eat-drink-man-woman-16/haze-comic-relief-all-funny-pics-singapore-haze-2013-a-4260683.html

3)高密度マスク・空気清浄機買い占め騒動。マスクの偽物が10ドルで駅前で売られるなどして話題になった。日本のオイルショック時のトイレットペーパー騒動レベルかもしれない、その時代を体感しているわけではないけれども、敢えて例えるならば。

4)シンガポール経済への打撃や観光客減少を恐れヘイズ情報のSNSシェアを自粛する自主的な動きも見られる。皮肉的だが素晴らしい愛国心。

5)毎時公開の大気汚染速報値に国民こぞって最大の関心が向けられる。テレビ番組には常に速報値が表示され、インターネットでは環境庁のライブアップデートウェブサイトにアクセス大集中。

6)低所得者層向けに政府から高密度マスク無料配布実施===>「なんてフットワークの軽い政府なんだ、弱者を守る対応が素晴らしい!」と日本人のコメントが聞かれたりする一方で、「シンガポール経済を支えているのは中間層だ、何故低所得者の健康を最優先しなくちゃいけないんだ、納得できない!」というローカル中間所得者の怒りを含む訴えも聞かれた。

7)煙害による喉、目の不調などの診察代にはシンガポール政府からの補助が===>これも「すごいじゃんシンガポール政府!」という賛美論から「当たり前でしょうが、むしろ無料診察にしてほしい」という声も聞かれた。

8) 煙霧たけなわにして、当地メジャー新聞朝刊一面に、世界を代表するファストフードM社の大気汚染を皮肉ったプロモーション広告が打ち出される。===>こりゃあ絶対日本では見られないよ!という代物だった。予想通りにこの広告、人々の反感を買う羽目に陥る。M社、ジョークが行き過ぎたと謝罪発表。

9)(私の周りだけかもしれないが)速報値情報が故意にコントロールされているのではないか、という疑念が疑念を呼ぶような不信感も見られたりした。
というのは、大気汚染速報値がウェブサイトによって大きく異なっていたりしたため。===>この不信感、最終的には自分の鼻を信じよう、という動きに及ぶ。PSI(ピーエスアイ)と呼ばれる大気汚染値は、発音が似ていることもあり、ピーサイ(中国語で【鼻糞】を意味する)値などと新命名されて、自らの鼻糞の量で大気汚染度を感知しよう、などと叫ぶ声がネット上に拡大する。

そうこうしているうちに、反発世論や政府の動き功を奏したのか、隣国の野焼きは下火になり、此れに青空戻れり、という万々歳な具合だ。

シンガポールに来て日が浅くヘイズ知識を持たなかった日本人の中には、「空の色が変わってしまって息が出来ず、何が起きたのかわからなかった」という人も少なくなかったようだ。「何がなんだかわからず、最初はまるで日本の3.11のようだった」と数週間前の公害現象体験を表現する人も。

自然災害、公害は国や地域によって現象・背景が異なるとはまさにこのことだなあ、と感じた次第。

よく耳にすることだが、地震と無縁のシンガポールに生まれ育った現地人は、地震に遭遇した時に机の下に潜るという行動がまったくとれないという。

反対に、地震と縁の切れない日本人など「グラっときたら」何をしてどうするか体に染み付くくらいの訓練を受けているから、机の下にもぐる、火をとめる、と本能的に動くだろう。

サバイバル術というと大げさだが、その土地で生きていくのならば、歴史背景もそうだが、ある程度の自然地理知識を頭に入れておいても損はないのかもしれない。

深刻になりすぎても良くないが(と言っても今回の大気汚染は、例え百歩譲っても大深刻そのものだったが)、ある程度の余裕をもって自然と向き合いたいものである。(・・・理想論か?)

条件なしで美味しい(無臭の)空気を胸に吸える今に感謝して、拝。

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